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技術とかいろいろ

俺流!絵の塗りにおける光の考え方

この記事は定期ゲ・丙 Advent Calendar 2021 11日目の記事です。定期ゲ・乙 Advent Calender 2021の同日にも技術系の記事を上げているのでよろしければそちらもどうぞ。

10日目:----

12日目:初めて定期更新ゲームに参加して感じたあれこれ - そんちょーさん

以下に続く記事ではすごく"それらしく"絵の塗りの考え方について書いていますが、あくまで私が独学でいろいろ学習してきたものを自己流に解釈したものになっていますのでご了承ください。

イントロダクション

定期ゲ、やってますか?
最近の定期ゲだとプロフィールに交流、キャラクターイラストなどいろいろなキャラ表現方法が用意されていてとても楽しいですね。

せっかく用意されているなら絵も用意したいですよね。やはりビジュアルがあるというのは伝える手段という上でこの上なく強力な方法なので……。

というわけで本記事では絵の技法についての解説を行います。
とはいえ絵の技法の解説は世に溢れているので、私が独特な解説をできそうな色塗りの話に絞ってお送りしていきます。

ちなみにこの記事は例によって例のごとく技術の話100%です。絵を描く心持ちとしての話は定期ゲ・乙 Advent Calender 2021の3日目にすげ~いい記事があったので貼っておきます。楽しむの、すごい大事。

note.com

塗りサンプル

この記事を読むと以下の塗りがどのようにできているのかが分かる……かもしれません。

 

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色と光

まず塗りについて考える前に色について考えてみましょう。人間は目を通して光線による刺激を受け取り、その光線を構成する波長や強度によって色を判別します。

ここで重要なのは、色とはすなわち光であるということです。つまり、色について考えながら塗るとき、光の性質について考えるとより”説得力のある”描写を行うことができます。("説得力のある"と強調したのはこれは物理的な正しさに過ぎず、物理的な正しさがそのまま絵としての美しさや良さとは限らないためです。この解釈は誤らないように注意しましょう)

さて、人間の知覚する光は主に2種類に大別できます。光っている物体を直接見たときに知覚する透過光と、光らないものを太陽や蛍光灯など外部の光源によって見たときに知覚する反射光です。

この記事ではキャラクターや風景の塗りについて語るため、主として扱うのは反射光になります。「塗りにおいて描写するのは(ほとんどの場合)反射光である」という前提で以降の記事をお読みください。

光源と吸光

物体が光を発するとき、その物体を構成する物質や発し方によって発生する光はそれぞれ異なります。例えば太陽光であれば可視光線のうちほとんどの波長を含んだ光を放出しています。

また物体が光を反射するとき、多くの場合は吸光という現象が発生します。吸光とはその名の通り、反射する光のうちいくつかの光を物質が吸収する現象のことです。吸収する光とその量はその物質によって決まっています。

例を挙げましょう。なぜ太陽光の下でりんごは赤く見えるのでしょうか?それはりんごが「ほぼ全ての光を含んだ太陽光から赤色の光以外を吸収している」からです。結果として目に届く光線は赤色光線のみとなり、りんごは赤いのだと人間が知覚することになります。

以上を概念的に数式のように表すと以下のようになるでしょう。(余談:この式を見るとなぜ光の三原色は加法混色なのか、色の三原色は減法混色なのかが分かりますね!)

目に届く透過光 = 光源の光

目に届く反射光 = 光源の光 - 反射する物質の吸光

ここでは「光源が含んでいない色の光線は反射光でも含まれない」というのが重要なポイントになります。

例えばキャラクターを描くとき、太陽光下の日中という前提としましょう。キャラクターを構成する色(光)は目に届くまでに以下の経過を辿ります。

  1. 太陽で光が放射される
  2. 宇宙空間を通る
  3. 大気圏を光が通過する
  4. 光がキャラクターに当たって反射される
  5. 目に光が届く

これが昼間などであれば「目に届く光=太陽光(≒ほぼ全ての色を含んだ光)-物質の吸光」になりますから、いわゆる服や肌の色をそのまま塗ってもそれらしく見えるでしょう。

しかし例えば夕方になると、大気圏が光を通過するときにレイリー散乱という現象によって周波数が高い光線ほど光が失われていきます。これによって青色が強く減衰し、緑色も若干減衰します。これによって、光源の光はオレンジ色になります。(参考までに、この色のRGB値は(221, 131, 12)です。夕焼けの色とも言えるオレンジ色は青色が強く減衰して緑色がそこそこ減衰したものだということがRGB値からも分かると思います)

そして、その光の反射光は当然青色光をほぼ含むことができず、緑色も減衰したものとなります。

なので、例えば夕焼けの下で赤髪で青服のキャラを描くとしましょう。赤色の髪については少し暗くなるぐらいであまり昼間と変化はありませんが、青い服(=青色の光以外を吸収する物質)はほぼ何の光も反射しなくなるため黒に近い色になります。

この性質を押さえておくことでさまざまな環境下でより説得力のある描写ができると思います。

以下は様々な環境における例です。

・水中
水中では大気とは逆に周波数が低い光線ほど光が失われていきます。そのため、描写する深度が深くなればなるほど赤色が失われ、緑色も赤色ほどでないにせよ失われていきます。そのため、水中の描写は青っぽくなります。(ただ、水中を描写するとき多くは水着で肌の露出によって色気や元気さを見せることが多く、赤が減衰すると血色が悪く見えそれらの演出力が減ってしまうため、リアルに描写するべきかは悩ましいところかもしれません)

・夜の街
夜の歓楽街の主な光源はネオンライトや広告塔の光となります。それらの色は非常に単色に寄った色のため、キャラクターは光源の色に非常に寄った色に染められることになります。

・蛍光灯下
蛍光灯の色は太陽光と異なり赤、緑、青以外の光線をほぼ含んでいません。また、商品にもよりますが青が強く描写される傾向にあります。そのため、全体として若干色彩が青よりに、そして単調になる傾向にあります。

反射

反射光について捉えるためには反射の性質についても考える必要があるでしょう。中学理科のおさらいになりますが、物体が光を反射するとき、その入射角と反射角は等しくなります。(θi = θr)

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これはすなわち、反射光によって物質を見た時、反射が行われた場所を原点とすると原点と目を結んだ直線を線対称に反転させた直線上に光源が位置することを意味します。もっと噛み砕いて言うと「目と、目から見た物質の傾きによって光源の位置が推定できます」。

さて、光源も主に2種類に大別できます。光っている物体そのものから届く直射光、直射光が散乱や様々な物質による反射により空間中におおよそ均一に光が広がってできる環境光です。

そして、上記について組み合わせて考えると次のことが言えます。「目と、目から見た物質の傾き、そして光源の位置によってそれが直射光の反射なのか環境光の反射なのか判別できます」。

具体的な例を見てみましょう。こちらは日光下の写真になります。

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画面右の黒人女性の肩に注目してみてください。この部分を鏡面として捉えた時、ちょうど太陽がここに映る箇所になります。なので、この部分は直射光の反射となり明るく映ります。

また、腕の下側に着目してみましょう。この部分は暗いです。この部分はカメラからみて下向きに傾いているため、ここを鏡面として捉えた時、映るのは地面になります。すなわちここに映りうるのは地面からの照り返し及び環境光であり、当然直射光の反射より暗いものとして映ります。

これを絵に応用すると、カメラから見た対象の箇所の傾きによって明るさを適切に変えることができます。その明るさは直接光の光源に対する反射の度合いに準じ、直接光を映し出すように反射するのであれば非常に明るく、そうでなければ暗くなります(単一の光源の場合)

実際には地面の照り返しなどで単一光源という場合は稀ですが、光源が複数になってもこの理論を元に少しづつ読み解いていくことでよりリアルな光が描けます。

これによる現象として分かりやすいのが”天使の輪”(髪の毛に輪っか状にハイライトができる現象)です。以下は天使の輪の例です(写真はPhotoACより)

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何故ライトに一番近い頭頂ではなくてちょっと下の部分が一番明るく見えるのでしょうか?その理由が先程の理屈で説明でき、以下のように反射されているからです。

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カメラから見て光って見えるのは光源に対して反射する部分であるオレンジで図示した部分となり、結果として頭頂より少し下の部分に天使の輪ができるというわけです。もしカメラがもっと上から撮っていたとしたら、より頭頂側に天使の輪は映ることになります。

曲面における光の反射

キャラクターなどを描く時、全体が平面ということはほぼありません。例えば胴体や腕、胸など、多くの場合は曲面を描くことになります。ここで平面と曲面でどのように反射に違いが生まれるかを見てみましょう。

まずは平面の場合です。平面の場合、反射のされ方は均一なため、当然目に入る光線も均一です。即ち、知覚に違いが生まれず、均一な見た目に見えます。

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次に曲面の場合です。曲面は反射角が連続的に変化する都合上、目に対して垂直に近づくほど目に入る光の量が減っていきます。即ち、目に対して傾いているほど若干暗くなっていきます。

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以上をまとめると「平らな面は見た目に変化がなく曲がっている面は明るさが徐々に変わっていく」となります。これを塗りとして考えてみると次のようになります。「平らに見せたい場所は明るさをあまり変えないように、逆に、曲がって見せたい場所は明るさを徐々に変えるようにする」。

明るさの変化の度合いを急にすればより急に曲がっているように見え、ゆるやかにすればよりゆるやかに曲がっているように見えます。

描いてみる

長々と書きましたが、実際に描いてみましょう。線画の描き方やポーズは本分ではないのでサクッと飛ばします&シンプルにします。出来上がった線画がこちら。見返すと右腕が細く右肘の曲がり方がちょっと変だったけどサンプルなのでとりあえずOKとします(雑)

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次にざっくりとベース色を置いてあげます。今回はモノトーンめな配色にしてみました。人間の目は相対的に色覚を行うので、背景色を灰色にしてあげると今後の塗りで後から見てみたら最初に塗ったところだけなんか薄すぎる……ということを防ぎやすいです。(色を塗る箇所は絶対に#FFFFFFより暗くなるので、白ではなくてある程度このぐらいかな~という明度に合わせてあげる)

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影を置いてあげましょう。胸が大きい人の胸周りが一番いろいろなテクニックを必要とするので、塗りはドレスの胸部分を使って主に解説していきます。

光源は太陽光で、観測者から見た時天頂より若干左手前に存在しているものとします。このとき、図示したP1, P2, P3の点でそれぞれ明るさはどうなるでしょうか?

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それぞれの地点で、どのように反射が行われるかは以下のようになります。

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おおよそ直感的に分かるかと思いますが、明るさはP1>P2>P3です。何故なのか詳しく見ていきましょう。

それぞれの地点を鏡面として捉えた時、P1は太陽を映します。なのでほぼ直接的に反射が行われることになり、一番明るくなります。なお、一番明るくなる点は胸の上部手前であるという点に注意してください。P1から少し奥側の箇所では若干"最適な"反射角度からズレるため、少しP1に比べて暗くなります。光源に一番近いところが明るくなるというわけではないのです。

次にP2を見ていきましょう。P2では太陽光は届いていますが、P2で反射された光は主に地面に向かっていきます。しかし、実際のところ多くの物質において光は必ず"直線的に"反射するとは限りません。非金属物質では光は拡散反射という現象を起こします。これによって鏡面上以外の角度に対してもある程度光は反射されて届きます。

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(©GianniG46 / Wikimedia

上記の図は拡散反射の光の反射の仕方です。diffuse reflectionの長さが拡散反射による光の強度を示しており、物体表面を見た時、平行に近い角度から見たとき(=目に対して斜めになってる箇所)ほど線の長さが短くなる(=暗くなる)ことが分かります。P2を改めてみた時、P2地点では届く光の量は中程度、目に対しては垂直気味なので中程度の光が届きそうです。P2のような地点を見るとき、その地点にどれだけの光が届いているか?及びその地点はカメラに対してどのような角度となっているか?によって明るさを考えることができます。

最後にP3です。ここは胸自身によって直接の太陽光線が遮られるため、カメラに映るものは環境光の反射のみです。これにより、P3地点では暗くなります。

以上を考えながら影を塗っていきましょう。P2のような地点の計算を上手く行ってあげることでかなりリアルな塗りに近づきます。ここで重要なのは、微妙なカメラに対する相対角の変化をきちんと塗ってあげることです。人間の目は凹凸を判断するのに微妙な明度差を利用しているためです。

それでは塗っていきましょう。ここではP2、P3のような光線の減衰を描きます。P1の明るくなる点については後回し。透明水彩やぼかしツールで光が届きづらい箇所やカメラに対しての相対角が垂直に近い箇所を暗くしていきます。絵としての味を出すため、ある程度は筆致を残してあげています。

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色を変えた部分をより見やすく図示するとこうなります。赤い部分ほどその地点に届く光の量が少ない/カメラに対する角度が垂直に近い、ということになります。

余談:ちなみに、今回の塗りではある程度筆致によって明るさの段階を残すように塗っていますが、筆致を残さないようにより細かい塗りににするとさらにリアル目な塗りに近くなり、逆にベタ塗りなどで明るさの段階の数を2~3程度にするとアニメ塗りになります。ギャルゲ塗りだとアニメ塗りを基本とし、各段階の中に独立したグラデーションを置くとそれらしくなると思います。(ギャルゲ塗りが指すものの幅が広いので単純にこうとはいい切れませんが)

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塗れたら次はP1を塗っていきます。ルードの色彩調和論曰く、明るいところは黄色みを帯びて、暗いところは青みを帯びた色合いにすると自然に見える(ナチュラル配色)そうです。(配色テクニックのうちの一つで、自然に見える配色というだけで絵としてこれが絶対的に正しいというわけではないことに注意!)

最近の流行だとどちらかというと黄色というよりはオレンジで光を描写しがちな気がします。なのでそれに倣ってP1による光の反射をオレンジ色で覆い焼き(発光)レイヤーでふわっと描いてあげます。より光が強調され、すごく一気にそれらしくなりましたね!

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次に細かい部分の影を塗ってあげます。胸の布地はトップ付近が張ります。そして胸に対する重力によって布は下に押さえつけられるため、余った布地は胸の下の付け根付近や左右の胸の中心下辺りに溜まっていきます。これによって布地はシワとなり凹凸を描くため、これも同様にカメラに対する相対角によって影をつけてあげます。

シワは胸のなだらかな角度変化に比べると急な角度となるため、同様に明度変化も急に塗ってあげましょう。他にも物体の凹凸によって太陽光が遮られる箇所も細かな箇所も塗っています。(スカートのひだ等)

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これでも十分いい見た目ではありますが、隠し味を加えましょう。P3のような地点では実際は地面からの照り返しが強く当たります。写真においては無視できる程度なことが多いのですが、絵においては情報量を足すために光の量をデフォルメして照り返し部分を光らせることが多いです。(これも最近の流行?実際はもっとデフォルメして暗すぎる部分を光らせる、ということも多い。ここではそうやって塗っている部分もある)

というわけで地面からの照り返しを塗りましょう。色は地面の色に対応するはずですが、ここは色味を面白くすることを優先で青っぽい光で塗っていきます。(流行に倣っている。オレンジ色の光に対するトライアド配色スプリットコンプリメンタリー配色となるのでキレイに見える)

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少しの光ではありますが、印象がぐっと変わったと思います。ここ単体だと少し悪目立ちしている感じもありますが、他の箇所も塗っていくことで馴染んでいきます。(それでも馴染まなかったらあとで不透明度下げてあげましょう)

他の箇所も同じように塗っていき、最終的に完成したものがこちらとなります。

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どうでしょうか?なかなか悪くない仕上がりではないでしょうか。絵というものは必ずしもリアル目な塗りが正しいとは限りませんが、なぜこの部分はこういう色になっているのだろう?ということを深く考えることで様々な理解に繋がる部分もあるのかな……と思っています。

最後に、今回作った絵のclipファイルを共有しておきます。ここの塗りってどうなっているんだろう?とかあったら参考になるかもしれません。

https://siroisakana.com/dist/AdCale_Illust_sample.clip(約14MB)

ここまで読んでいただきありがとうございました。もしよろしければ定期ゲ・乙 Advent Calender 2021の同日にあげている定期ゲーサンプルの話と定期ゲ・甲 Advent Calender 2021で1週間後に上げるデザインサンプルの話もよろしくお願いいたします。

それではまた。